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会話に出てくる英単語の6割は、
辞書どおりに鳴っていない

英語が聞き取れないのは、単語を知らないからでも、聞く量が足りないからでもありません。この記事では、その理由を研究データで説明します。ここに出てくる数字は、すべて原典の論文に当たって確認したものだけを使っています。

2026年8月2日 ・ VoiceGlyph

英語の勉強を、何年しましたか。

中学一年生で be動詞 を習ってから数えると、多くの人が10年前後になると思います。中学の3年間だけで、英語の授業は420コマ。高校を入れればもっと増えます。

参考書も買った。アプリも入れた。TOEIC も受けた。

それなのに、映画の音声を英語に切り替えた瞬間、何を言っているか分からない。

先に結論を書いておくと、この記事の答えは「あなたのせいではない」です。少なくとも、大部分は。

まず、この一文を見てください

声に出さずに、読んでみてください。

Did you want a cup of water?

意味は、一瞬で分かったと思います。使われているのは did / you / want / a / cup / of / water の7語だけ。すべて、中学一年生で習う単語です。

では、これがネイティブの会話でどう鳴っているか。

ジュ・ワナ・カッパ・ワラ?

Did you want a cup of water? が「ジュ・ワナ・カッパ・ワラ」と鳴る仕組みの分解
図1:たった7語の中で、4種類の変化が起きている。

読めば全員が分かる文が、聞くと分からない。これが、この記事の主題です。

そして——この一文の中で起きていることは、4種類しかありません。それが何なのかは、後で説明します。

通説1「単語を知らないから」— 違います

最もよく言われる説明です。そして、いちばん最初に否定できます。

もし語彙が原因なら、字幕を出しても分からないはずです。でも、字幕を見れば分かる。つまり——あなたはその単語を知っている。知らないのは、その単語が実際にはどんな音で鳴るかのほうです。

これは実験でも確かめられています。

ポーランドのアダム・ミツキェヴィチ大学の研究者が2024年に発表した研究では、英語学習者102人に単語の聞き取りテストを行いました。使われた単語は、意図的にすべて「よく使われる簡単な単語」に統一されています。「知らない単語だったから」という言い訳ができないよう、設計されているのです。

結果は——前後の文脈なしで聞かせた群が 31パーセント。文脈ありでも 41パーセント でした。

高頻度語だけを使った聞き取りテスト。文脈なしで31%、文脈ありでも41%
図2:知っているはずの単語だけを使ったテストでも、文脈なしなら3割、文脈があっても4割。

読めば全員が分かる単語です。それでも、前後の文があってさえ、耳では4割しか届きませんでした。

もう一つ、日本人学習者を対象にしたデータがあります。日本人大学生332人に、同じ単語を「読んで」テストした場合と「聞いて」テストした場合で、知っている数を比べた調査です。結果は、どの難易度帯でも読んだほうがはっきり多かった

同じ単語なのに、読めば分かって、聞くと分からない。これが日本人学習者に一貫して出ている傾向です。

この節の結論

語彙を増やしても、この問題は解決しません。

読める単語が増えて、聞けない単語が増えるだけです。足りないのは単語の知識ではなく、その単語が実際にどう鳴るかの知識です。

通説2「聞き流せば慣れる」— 効果は小さい

先に結論を書きます。聞く量を増やすことの効果は、期待されているよりずっと小さい——というのが、データを追った結果です。順に見ていきます。

まず、非常に鮮やかな実験があります。ワシントン大学の「心・脳・学習センター」のパトリシア・クールらのチームが、2003年に米国科学アカデミー紀要(PNAS)に発表した研究です。

生後9ヶ月のアメリカの赤ちゃんに、中国語を聞かせました。1回25分を12回、合計およそ5時間。

生身のグループは学習が成立、録音グループは学習ゼロ。しかし録音グループのほうが聞いた音節数は多い
図3:録音グループのほうが多くの音を聞いたのに、学習は起きなかった。

生身のグループは、中国語の音を聞き分けられるようになりました。録音のグループは——何も変わりませんでした。中国語を一度も聞いていないグループと、統計的に差がなかったのです。

そして、この実験の最も面白い点はここです。録音のグループのほうが、聞いた音の数は多かった。生身グループが 33,120 音節だったのに対し、録音グループは 49,866 音節。

理由も測られています。注意の度合いです。生身の人が話しかけてくるとき、赤ちゃんの注意は5段階中 3.53。録音を流したときは、映像つきで 2.79、音声だけなら 1.48 でした。

つまり——差がついたのは、聞いた量ではなく、注意を向けていたかどうかでした。

音は耳に入っている。でも、聞いていない。

そして「聞き流し」という言葉は、そのまま「注意を向けずに聞く」という意味です。

正直な但し書き

これは乳児の音の聞き分けの実験です。大人の英語学習にそのまま当てはめることはできません。「大人の聞き流しも無意味だ」とまで、この研究は言っていません。

言えるのは——言語をいちばん吸収しやすい時期の脳でさえ、聞いた量だけでは学習が起きなかった、ということです。

そして、これは経験でも分かるはずです。聞き取れない音は、何回流しても聞き取れないままです。分からなかったところは分からないまま通り過ぎる。それを100回やっても、100回通り過ぎるだけです。

この節の結論

聞く量を増やすこと自体が、聞き取れるようにしてくれるわけではありません。

慣れやリズムはつきます。でも、分からなかった音は、分からないまま通り過ぎるだけです。

では、何が起きているのか — 音が崩れる4つのパターン

英語の音が崩れるパターンは、大きく分けて4つしかありません。

音声変化の4分類:くっつく(連結)、化ける(同化)、消える(脱落)、弱まる(弱化)
図4:聞き取れない理由は、この4つに分類できる。

ここで、冒頭の一文に戻ります。

Did you want a cup of water?

この7語の中で、4種類すべてが起きていました

知らない単語は、ひとつもありません。起きていたのは、この4種類の変化だけです。

知るだけなら、ここまでで終わりです。4つしかありません。

問題は、頻度です

これが「たまに起きる例外」なのか「常に起きること」なのか。ここに実測データがあります。

2004年当時オハイオ州立大学にいた音声学者キース・ジョンソンが、アメリカ英語の自然な会話およそ88,000語を、一つずつ手作業で音声表記した研究があります。

会話に出てくる単語のうち、辞書どおりに鳴っているのは4割未満
図5:6割以上の単語が、辞書の発音から音がひとつ以上ちがっていた。

さらに著者はこう書いています。

会話では、20語に1語が、音節を丸ごと落としている

たとえば apparently(4音節)が、会話では2音節で発音されることがあります。「アパレントリー」を待っていても、来ないのです。

いちばん分かりやすい例

コロラド大学ボルダー校の言語学者アラン・ベルとダニエル・ジュラフスキーらのチームが、アメリカ音響学会の学術誌に発表した研究で、電話での会話8,000語あまりを分析しています。

and の語末の d が発音されるのは14%、冠詞 a がはっきり発音されるのは17%
図6:and の d は86%で消え、冠詞 a は83%が曖昧な音。

「and」が「アンド」と鳴るほうが、例外なのです。

中学で最初に習う単語です。誰でも知っています。でも、あなたが知っている音では、ほとんど鳴っていない

この節の結論

知らない単語が聞こえないのではありません。いちばん簡単な単語が、知らない音で鳴っているのです。

そして崩れ方は、くっつく・化ける・消える・弱まる の4つしかありません。

それが原因だと、どう証明するのか

ここまでは「音が崩れている」という事実です。それが「聞き取れない原因だ」と言うには、別の証明が要ります。

ハワイ大学のイトウ・ヤスコ氏が2001年に発表した研究に、その実験があります。まったく同じ文を、音声変化を含む形と含まない形の2通りで録音し、書き取ってもらう。40点満点です。

ネイティブは音声変化があっても39.89点で変化なし。学習者下位群は35.22点から29.00点に低下
図7:同じ文なのに、ネイティブは一点も落ちず、学習者だけが落ちる。

同じ文です。使われている単語も文法も初級レベルに揃えてあります。違うのは、音が崩れているかどうかだけ

つまり——足りていないのは単語の知識ではなく、その単語がどう鳴るかの知識です。それがないから、音が崩れた瞬間に追えなくなる。これが「聞き取れない」の中身です。

※この研究は被験者が27人と少なく、著者自身も「この人数では確かなことは言えない」と明記しています。ただ、同じ文で比べているという設計がきれいなので紹介しました。

そして、この実験には続きがあります

音声変化を種類別に見ると、下位グループではこうなっていました。

同じ学習者が、同じテストの中で、形として覚えている音は聞き取れて、規則で崩れる音は聞き取れていない。

isn'twon't は、規則で導けないので「1つの形」としてまるごと覚えます。だからその形の音を知っている。その分だけ、聞き取れている。

これは重要な意味を持ちます。足りていないのは、崩れた音を「そういう形だ」と知っておくことだということです。

この節の結論

音が崩れた瞬間に、追えなくなっています。ネイティブは同じ文で一点も落ちません。

ただし、形として知っている音は、聞き取れています——縮約形(isn't・won't)の93%が、その証拠です。

ただし、知っただけで聞けるようになるわけではありません。知らないと、練習する対象そのものが見えない——そこまでです。

音声変化を知らない人にとって、聞き取れなかった箇所は「なんか速くて分からなかった」で終わります。知っている人にとっては、「あ、いま got to が繋がって崩れたな」になる。

同じ音を聞いて、片方は霧で、片方は輪郭がある。

では、輪郭が見えたあと、どう練習すればいいのでしょうか。

では、どう練習すればいいのか

結論から書きます。崩れ方を理解して、その音に間隔をあけて何度も出会う——いまのところ、確からしいのはこの2つです。

① 何が起きたのかを、理解する

これは、すでにこの記事の中で証拠が出ています。

isn'twon't93% 聞き取れていたのは、その形の音を知っていたからでした。「そう鳴る」と知っている音は、聞き取れている。

だから、聞き取れなかったときに「速かった」で終わらせず、そこで4つのうちのどれが起きたのかまで降りる。ここが出発点になります。

ディクテーションが役に立つのは、まさにここです。自分にはこう聞こえた、と書き出して実際の音と並べると、ズレが目で見えます。これができる方法は、ほぼこれだけです。

※ただし実行コストは高いです。ある授業実践では、音声1分弱の素材に30分かけています。

② 同じ音に、間隔をあけて何度も出会う

一度理解しても、次に流れてきたときに反応できなければ意味がありません。

ここは、記憶研究のほうに厚いデータがあります。254本の研究・のべ14,000人以上を統合した分析(アメリカ心理学会の Psychological Bulletin 掲載)では——

また、専門家が10種類の勉強法を評価した報告では、最高評価を受けたのは「間隔をあけた復習」と「思い出す練習」(答えを見る前に自力で思い出そうとすること)の2つだけでした。下線を引く、読み返す、といった定番は最低評価です。

シャドーイング(聞こえた音を、少し遅れて声に出して追いかける練習)が効くのも、この文脈です。秋田大学の濱田陽氏の研究では、内容理解が伸びたのは下位グループだけでした(上位者は、もう音を追えているため)。まだ追えていない音を、体に入れ直す——そのための方法だと考えると、位置づけがはっきりします。

この節の結論

崩れ方を理解して、その音に間隔をあけて何度も出会う。

ディクテーションもシャドーイングも、この2つを実現するための道具です。どちらが優れているかを競わせる話ではありません。

——ところが、ここで問題が起きます。

②が、構造的にほとんど成立していないのです。

ところが——復習しようとしても、対象が残っていません

①は、その場でできます。聞き取れなかった箇所を巻き戻して、何が起きたのかを確かめればいい。

問題は②です。繰り返すには、繰り返す相手が要ります。

例で考えてみます。

今日、10分の英語動画を見たとします。3箇所、聞き取れませんでした。

巻き戻して、字幕で確認します。「あー、そう言ってたのか」と納得します。何が起きたのかも分かりました。ここまでは、正しい勉強です。

翌日、別の動画を見ます。

——昨日の3箇所とは、二度と出会いません。

1週間後、同じ崩れ方が別の動画で流れます。また、聞き取れません。

サボっていません。毎日見ています。確認もしています。

でも、復習しようと思ったときに、何を復習すればいいのかが分からない。

昨日つまずいた音は、どこにも書き留められていないからです。

この節の結論

繰り返せないのは、意志の問題ではありません。繰り返す相手が、残っていないからです。

間隔をあけて復習することに効果があると分かっていても、復習する対象がなければ、実行のしようがありません。

単語帳が発明したのは、「覚え方」ではありません

実は、これとまったく同じ問題を、語彙学習も昔は抱えていました。

本を読む。分からない単語に線を引く。翌日、別の本を読む。

線を引いた単語とは、二度と出会わない。

さきほどの「3箇所」と、まったく同じ構造です。

それを解決したのが、単語帳でした。

でも、ここが大事なところで——

単語帳が発明したのは、「覚え方」ではありません。

覚え方は、昔から知られていました。繰り返せばいい。それだけです。実際、この記事でも前の章で見ました。間隔をあけて復習すれば、37%が47%になる。

足りなかったのは、何を繰り返すのかを、取っておく方法のほうでした。

単語帳がやったのは、たった一つです。

本一冊を丸ごと復習するのではなく、自分が分からなかった単語だけを、切り出して、持ち歩けるようにした。

覚え方は変わっていません。変わったのは、学習の単位です。「一冊」から「一語」へ。

それだけで、語彙学習は続くようになりました。

音声変化には、その単語帳がありません

ここまで読んで、気づいたと思います。

崩れ方を理解する方法は、あります。間隔をあけて繰り返すことに効果があることも、分かっています。

ただし——出会い直す相手が残っていなければ、そもそも始まりません。

単語には単語帳がある。文法には問題集がある。

音だけが、その日限りで消えていきます。

この節の結論

足りないのは、やる気でも方法でもありません。「聞き取れなかった音を、取っておく場所」です。

語彙学習で単語帳が解いたのと、まったく同じ問題が、音のほうにはまだ残っています。

まとめ

  • 聞き取れない原因は、語彙でも聴取量でもない
  • 会話に出てくる単語の6割以上は、辞書の発音と違うand は86%で d が消える
  • 崩れ方は4パターンしかない(くっつく・化ける・消える・弱まる)
  • 同じ文でも、ネイティブは崩れても平気で、学習者だけが落ちる
  • 足りないのは単語の知識ではなく、その単語がどう鳴るかの知識。形として知っている音(isn't・won't)は93%聞き取れている
  • やるべきことは、崩れ方を理解して、その音に間隔をあけて何度も出会うこと。手法の名前ではなく、この2つが揃っているかどうか
  • そして最大の問題は、聞き取れなかった音を、取っておく場所がないこと

VoiceGlyph について

私たちは、この「取っておく場所がない」という問題に対して、YouTube を見ていて聞き取れなかった一文をその場でカードにして、何が起きたのかを解説つきで残し、間隔をあけて復習できるツールを作っています。

素材を YouTube にしているのには、理由があります。台本がなく、発声訓練を受けていない人が、その場で考えながら話しているからです。教材の音声は、聞き取りやすくする過程で崩れる音そのものが取り除かれています。映画は、訓練を受けた役者が台本を読み、何度も録り直したもの。あなたが実際に英語で話す相手は、そのどちらでもありません。

ただ、この記事に書いたことは、ツールを使わなくても成り立つ話です。まず「音は4パターンで崩れる」と知るだけでも、聞こえ方は変わると思います。

VoiceGlyph を見る

出典

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