単語カードをめくる。問題集を解き直す。アプリの通知に従って復習する。
やり方は人それぞれです。ただ——同じ時間をかけても、残るものは同じではありません。
この記事では、記憶研究が示す4つのことを紹介します。1つめが、いちばん実用的です。
① 答えを見ない復習は、効果が確かめられていません
復習中に、こういう瞬間はありませんか。
「うーん、思い出せない。……まあいいや、次」
この「まあいいや、次」が問題です。
コロラド州立大学のクリストファー・ロウランドが、61本の研究から159の比較を集めて分析しています。アメリカ心理学会が出す Psychological Bulletin——心理学の総説誌としては最上位のひとつ——に掲載されたものです。
ここで見ているのは「思い出す練習」の効果です。——答えを見る前に、自力で思い出そうとすること。単語カードの裏をめくる前に答えを言ってみる、教科書を閉じて内容を言ってみる、といった行為を指します。
その効果を、条件別に比べています。
対象は、復習のときに半分も思い出せない——そのくらい、まだ定着していない段階の内容です。
答えを見せなかった場合、テストの効果の推定値は −0.21 から 0.27 の範囲に収まりました。
マイナス側も含んでいます。つまり、効果があるとも、ないとも言えない。方向すら定まらなかったということです。
一方、答えを見せた場合は、はっきりした効果が確認されています。
これ、どういうことか
思い出せなかったのに答えを見ないまま次へ行った場合、その復習に効果があるとは言えないということです。
ここは正確に書きます。「効果がゼロだと証明された」のではありません。「効果があるとは言えなかった」です。
それでも、直感には反すると思います。「思い出そうと頑張ったんだから、多少は効いているはず」と思いたくなる。でも、思い出せなかった時点で、記憶から引き出す練習は成立していません。そして正解を見ていないので、新しく入るものもない。
分からなかったら、必ず答えを見る。
「思い出せない → まあいいや」を「思い出せない → 答えを確認」に変えるだけです。手間はほとんど変わりません。
② 復習の回数は同じでも、正答率が 37% → 47% になる
「一気にまとめてやる」か「間隔をあけてやる」か。
これも、決着がついています。カリフォルニア大学サンディエゴ校のニコラス・セペダらが、254本の研究・のべ14,000人以上を統合した分析です。同じく Psychological Bulletin に掲載されています。
- まとめて一気に復習した場合の正答率 — 37%
- 間隔をあけて復習した場合 — 47%
これ、どういうことか
復習の回数を増やさなくても、いつやるかを変えるだけで結果が変わるということです。
同じ3回の復習を、試験前日にまとめてやるか、3日に分けてやるか。後者のほうが残ります。回数も、かかる時間も同じです。
同じ回数なら、分けたほうが得です。
③ 定番の勉強法の多くは、最低評価でした
アメリカの心理学者チームが、よく使われる10種類の勉強法を検証し、有効性を格付けした報告があります。ケント州立大学のジョン・ダンロスキーを筆頭に、デューク大学、ウィスコンシン大学マディソン校、バージニア大学の研究者が加わったものです。
最高評価(高い有用性)を受けたのは、2つだけです。
- 思い出す練習をすること(答えを見る前に、自力で思い出そうとする)
- 間隔をあけて復習すること
——つまり、①と②です。
※この格付けは、①②と同じ研究群を土台にした専門家レビューです。独立した3つめの証拠ではありません。価値があるのは、次の「効かない側」のリストのほうです。
そして最低評価だったのが、こちらです。
- 教科書に下線を引く
- 読み返す
- 要約する
- 語呂合わせ
- 文章を頭の中でイメージ化する
これ、どういうことか
多くの人が「勉強している」と感じている行為が、実は効きにくいということです。
教科書を読み返すと、内容に見覚えがあるので「分かってきた」と感じます。でもそれは見たことがあるという感覚であって、思い出せることとは違います。
※この格付けに「◯%向上する」という数字はありません。有効性のランク付けです。
「読み返す」は、やった感のわりに効きません。
同じ時間でも、「思い出す」に使ったほうが残る量が増えます。
④ 間隔の広げ方は、それほど重要ではありません
暗記アプリでよく見る説明があります。
復習の間隔は、だんだん広げていくのが最適です。1日後、3日後、1週間後、2週間後——
もっともらしく聞こえます。実際、多くのアプリがこの設計になっています。
ところが——「広げるほうが優れている」という部分には、根拠がありませんでした。
パリ高等師範学校の認知科学・心理言語学研究所のアリス・ラティミエらが、16本の研究から、広げる方式と一定間隔を比べた54の比較を集めて分析しています。結果は——両者に、意味のある差がありませんでした。
ここは正確に読む必要があります。差がなかった、ということは「どちらのやり方でも効く」ということです。広げる方式が悪いわけではありません。ただ、一定間隔より優れているとは言えなかった——それだけです。
さらに、②で紹介したセペダらも、同じ論文の中でこう書いています。
それでも一部のソフト開発者は、広げていく間隔のほうが固定間隔より優れていると前提している
Cepeda et al. (2006), Psychological Bulletin 132(3), p.370
そして具体例として、間隔反復ソフトの草分けである SuperMemo が示した「万能公式」を挙げています。
※批判されているのはソフトの品質ではなく、設計に組み込まれた前提のほうです。
では、何が効いているのか
さきほどのパリのチームは、こう見ています。
効いているのは「間隔をどう広げるか」ではなく、最初に思い出す機会を、すぐに作らないこと。
覚えた直後に確認しても、まだ覚えています。それでは「思い出す」練習になっていません。少し忘れかけたところで思い出す——その負荷そのものが効いている、という説明です。
間隔の広げ方に、神経質になる必要はありません。広げても、一定でも、効きます。
大事なのは、覚えた直後に確認しないことのほうです。
そして①と合わせると、こうなります。忘れかけたころにやる。そして思い出せなかったら、必ず答えを見る。この2つはセットです。答えを見るなら、思い出せなかった回も損になりません。
おまけ:あの忘却曲線の数字、意味が違いました
復習の話には、必ずこれが出てきます。
エビングハウスの忘却曲線によると、人は1時間で50%、1日で70%を忘れる
この記事を書くにあたって、原典を確認しました。アムステルダム大学の研究者2人が、エビングハウスの実験を再現してオープンアクセス誌 PLOS ONE に発表した論文があり、そこに原データの表が載っています。
結果から言うと、数字の出どころは原典で合っています。違うのは、その数字が何を指しているかでした。
エビングハウスが測っていたのは「節約率」——もう一度覚え直すときに、どれだけ手間が減ったかという値です。
1時間後の 0.442 は、「44%覚えている」ではなく、「覚え直すのに、44%短い時間で済んだ」という意味になります。
まったく別の話です。
ついでに言うと、この実験の被験者は、エビングハウス本人ただ一人でした。7ヶ月かけて、自分で覚えて、自分で測っています。
「1時間で50%」という数字の出どころは、確かに原典の表です。
ただし、その値が指しているのは「覚えている割合」ではなく、「覚え直す手間が、どれだけ減ったか」でした。間隔をあけた復習が効くこと自体は②のとおり別の研究で確かめられているので、結論は変わりません。根拠として持ち出す数字の意味が、違っていただけです。
正直に書いておくこと
ここまでの知見が当てはまる範囲には、限りがあります。
1つめ。 これらの研究の多くは、単語や事実の記憶を対象にしています。技能の習得や、体で覚えるタイプの学習にそのまま当てはまるとは限りません。
2つめ。 この分野には出版バイアス——効果が出た研究のほうが発表されやすいという偏り——が確認されています。先ほどのパリのチームの分析では、その分を差し引くと、効果の大きさを表す数値が 1.01 から 0.74 に下がりました——3割近い縮小です。②の数字は、良く見積もったときの値だと思ってください。
3つめ。 私たちが扱っている英語の音の聞き取りについて言えば、間隔をあけた復習の効果を検証した研究は、調べた範囲では見つかりませんでした。理屈の上では期待できますが、実証済みではありません。
まとめ
- 思い出せなかったら、必ず答えを見る。見ないまま次へ行く復習は、効果が確かめられていない
- 同じ回数でも、間隔をあけると正答率が 37% → 47% に上がる(10ポイント差=1.27倍)
- 最高評価を受けた学習法は2つだけ。「思い出す練習」と「間隔をあけた復習」。下線・読み返し・要約は最低評価
- 間隔の広げ方は、それほど重要ではない(広げても一定でも効く)。大事なのは、覚えた直後に確認しないこと
- よく引用される忘却曲線の数字は、覚えている割合ではなく「覚え直す手間の減り方」だった
VoiceGlyph について
私たちは、YouTube を見ていて聞き取れなかった一文をその場でカードにして、何が起きたのかを解説つきで残し、間隔をあけて復習できるツールを作っています。復習のときは、必ず解説と正解が見える設計にしています。この記事の①がその理由です。
VoiceGlyph を見る出典
- Rowland, C. A. (2014). The Effect of Testing Versus Restudy on Retention: A Meta-Analytic Review of the Testing Effect. Psychological Bulletin, 140(6), 1432–1463.(発表当時コロラド州立大学)
- Cepeda, N. J., Pashler, H., Vul, E., Wixted, J. T., & Rohrer, D. (2006). Distributed Practice in Verbal Recall Tasks. Psychological Bulletin, 132(3), 354–380.(発表当時カリフォルニア大学サンディエゴ校ほか)
- Dunlosky, J., Rawson, K. A., Marsh, E. J., Nathan, M. J., & Willingham, D. T. (2013). Improving Students' Learning With Effective Learning Techniques. Psychological Science in the Public Interest, 14(1), 4–58.(ケント州立大学ほか)
- Latimier, A., Peyre, H., & Ramus, F. (2021). A Meta-Analytic Review of the Benefit of Spacing out Retrieval Practice Episodes on Retention. Educational Psychology Review, 33, 959–987.(パリ高等師範学校/PSL大学 認知科学・心理言語学研究所)
- Murre, J. M. J., & Dros, J. (2015). Replication and Analysis of Ebbinghaus' Forgetting Curve. PLOS ONE, 10(7), e0120644.(アムステルダム大学)
